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山口県・油谷島に根を張り、

「百の仕事を紡ぐ人」を育てる。

アーティスト気質の塩職人

山口県長門市|百姓庵

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親方のこと

名前: 井上雄然

職人名: 塩職人

地域: 山口県長門市

工房名: 百姓庵

町のお気に入りスポット:
百姓庵のそばにあるプライベートビーチ

海と山が教えてくれる「生きるための仕事」

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穏やかな波が広がる油谷湾には、いくつかの小島が点在する

山口県長門市・向津具(むかつく)半島の西北部に位置する、油谷島(ゆやしま)。本州と地続きなのにもかかわらず、「島」と呼ばれる周囲8kmほどのこのエリアには、わずか40名ほど※1の人々が寄り添うように暮らしている。

そんな油谷島の地から穏やかな湾を見渡しながら、株式会社百姓庵 代表取締役の井上雄然さんは、今日も塩を作っている。

まず、塩田から海水を汲み上げ、時間をかけて水分を飛ばして濃い塩水(かん水)を作り出す。それをさらに薪の火にかけて鉄釜で炊くと、ゆっくりと塩の結晶が浮かび上がってくる。私たちが家庭で目にする塩ができ上がるまでに、なんと1週間を要するというから驚きだ。

(※1)2025年4月時点の数値。

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「鉄の釜を使うと、まろやかな味わいに仕上がります」と井上さん

「海水を釜で炊く際、あえて薪を使うことで、大小10種類ほどの結晶ができ上がります。炎の温度が一定でないためですね。粒の大きさが不揃いな方が、塩の味わい深さが出るんです」

井上さんは23歳のときに都内の大手企業を退職したのち、「自然のものと暮らす生活」を志して山口県下関市豊田町に移住した。そして数年後、この油谷島に出合い、新たな生活を始めた。

「都市部では、少し強い雨が降るだけで電車が止まり、帰宅できなくなることもありますよね。『こんなにも自然に対して脆い生活をしていて良いのか?』と、疑問に思ったんです」

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雨天の日以外、24時間油谷湾の海水を汲み上げ続ける立体式塩田装置

「塩は、人が生きていくうえで不可欠な存在です」と、井上さんは続ける。

「美味しい塩を作るには、まず海の環境が何より大切なんです。僕は1年かけて全国の塩職人を訪ね歩き、海水を味見して回りました。そして、その中で『塩を作るなら、やっぱり油谷島だ』と強く感じたんです。2本の大きな川の水が流れ込む油谷湾は、海と森の栄養が混ざり合う汽水域(きすいいき)※2になっています。ここの海水は磯臭さがほとんどなく、飲めるんですよ」

その理由の一つが、周囲の山々に広がる魚付林にある。油谷島では森林の約8割が、また対岸の山々でも5割以上が原生林として守られており、豊かな自然環境が保たれているのだ。

「森のミネラル分を多く含んだ塩は、ただ塩(しょ)っぱいだけでなく、旨味があるんです。まさに塩作りは、良い自然環境あっての仕事。僕たちは刻一刻と変化する自然と、つねに向き合いながら仕事をしています」

(※2)淡水と海水が混ざり合うところ。

百姓が営む村のような会社を

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「うちでは耕作放棄地を開墾するために、豚の放牧を行っています。豚たちが雑草を食べ尽くしてくれるんです」と井上さん

井上さんは、いわゆる「塩匠」とは少し違う。「百姓庵」という屋号が示すとおり、その仕事は実に多岐にわたる。塩作りをはじめ、豚の世話、畑や田んぼでの作業、必要に応じて大工仕事までこなす。百姓庵では、いわゆるジョブローテーション制が自然と根づいているのだ。

自分たちの手で食べ物を作り、それらを美味しく食べて暮らす——そうして「生きる力」を自給するのが、百姓の生き方だ。

また、百姓庵では「休みを自分で決められる、自由な働き方」も大切にしているのだという。

勤務時間は、季節やその日の天候に合わせて変えるそう。平均して朝は8時ごろから動き出し、夕方はきりの良いところまで働く。猛暑の時季は早朝や夕方にだけ活動するなど、臨機応変に対応していく。

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一大棚田地帯として知られる油谷地区。百姓庵の段々畑からも、日本海が臨める

「最近、ワークライフバランスという言葉をよく耳にしますが、仕事とプライベートの時間を完全に切り離す必要はないと思うんです。百姓にとっては、どちらも人生の一部。百姓庵では週1日の休みを基本としつつ、各自が担当業務に合わせて休み方を選べるようにしています」

また、興味深いのが、ユニークな給与体系だ。基本給は18万円だが、自分が百姓庵でやりたい仕事を持ち込めば、それによって得た利益(粗利)の最大4割が給与として還元される。しかも「やりたい仕事」は、百姓庵に活きることなら第一次産業以外の分野でも良いという。

「皆さんには、与えられた仕事をこなすサラリーマン的な発想を一度手放して、自分の仕事であり、人生をデザインしてみてほしいんです。もちろん、現時点では経験不足でも、全力でサポートしますので安心してくださいね」

井上さんの言葉には、自然からあらゆる糧を生み出す百姓を「Life Artist」と呼ぶ所以が伺える。

「事業立ち上げには時間がかかります。けれど、僕は『自分で仕事を作る人』を本気で応援したいと思っているので、アイデアの芽を育てるためには出資もします。我々が詳しくない分野については、ぜひいろいろ教えてください」

百姓庵のコンセプトは「Life Artist(匠)が生み出す糧を通じて、未来につながる経済圏を作る」。井上さんは、「社員メンバーとは、ワクワクする未来を共に創っていく、家族のような存在でありたいんです」と話す。

今回の正社員募集は、百姓庵にとって2年ぶりの求人となる。

「今ある仕事に加えて、一緒に新たな挑戦ができる方と出会いたいと思っています」と、井上さんは力強く語った。

未来の「百姓」たちへ。ミスマッチを減らすために

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百姓庵のプライベートビーチ

実は、百姓庵で働く正社員メンバーは、井上さん含め全員が他県からの移住者だ。パートナーを伴って都会から引っ越してくる若者も少なくないという。

一方で、現実には「合わなかった」とすぐに辞めてしまう人もいる。そこで、油谷島に住むメリットとデメリットを、ここで正直にお伝えしなければならない。

メリットは、快適な住環境を、驚くほど手頃な費用で手に入れられることだ。

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古民家生活が堪能できる居候先。木のぬくもりに包まれた、落ち着いた空間だ

まず、井上さんがかつて住んでいた家が、移住希望者の居候先として整えられている。さらに、近隣には空き家も多く、移住先を見つけるのもそれほど難しくない。井上さんの家に住む場合、家賃は無料。また、この地域の家賃相場は非常に安く、月5,000円程度で借りられる家も珍しくない。条件の良い物件でも1〜2万円ほどで、都会の暮らしと比べると、その安さに驚くはずだ。

「社員メンバーには、食事面だけでなく、毎日の暮らしも心地よく感じてもらえるよう心がけています」

しかし、田舎ならではのデメリットも多い。

「油谷島は過疎化と高齢化がかなり進んでいて、正直うちで働く移住メンバーだけが若いっていう感じです(笑)。ご近所さんが、古くからこの地域に住む親戚同士なんてこともよくあります。また、交通の便が悪いので、運転免許は必須です。

でも、油谷島の人々は本当に温かい。農家や漁師が多く、食べ物の物々交換で生活が成り立ってしまうほどに、助け合いの文化が根付いています。最初は戸惑うかもしれませんが、こうした人間関係の心地よさも感じてみてほしいです」

油谷島には、余白がある。不便なこともあるが、そのぶん自分の手でできることがたくさんあるのだ。「まだ知らない」を面白がれる人こそが、この仕事にはぴったりなのかもしれない。

見知らぬ土地で生きることに、不安を感じる人も多いだろう。けれど油谷島には、健やかな暮らしと、手を差し伸べる親方がいる。

油谷島の豊かな自然の中で、今日も百姓庵の釜には、静かに火が灯っている。

おまけの話

今よりも働き方の選択肢が少なかった時代に、自給自足を志し、独りで田舎に移住した井上さん。生活にもストイックなイメージから、「きっと職人気質の朴訥とした方に違いない」と勝手に緊張していたのですが、実際はとても笑顔が素敵で、物腰柔らかな方でした。ものづくりに関する興味深いお話をたくさん聞かせていただき、あっという間に1時間半の取材を終えました。

もし、あなたが少しでも「井上さんに会って、話を聞いてみたい」と感じたなら、それは井上さんのビジョンにあなたの感性が反応している証拠だと思います。どうか自分の直感を信じて、一度百姓庵の門を叩いてみてください。

取材・文章/谷口由佳 写真提供/株式会社百姓庵

求人情報

工房名:株式会社百姓庵

働き方:
フルタイム(正社員)

給与:
⽉給180,000 円
新事業の立ち上げなどに応じてインセンティブ給あり
※試用期間1〜2ヶ月あり(使用期間中:月給100,000円)
研修期間中は住居費・水道光熱費を会社負担

勤務地:
山口県長門市

勤務時間:
8:00〜17:00 ※休憩1時間

仕事内容:
・農業(米・野菜の栽培・管理)
・製塩業(伝統的な製法による塩作り)
・大工仕事(施設の修繕や建設)
・養豚業の準備作業
・その他、希望やアイデアを活かした新しい挑戦

百姓庵では、ジョブローテーションを基本としています。
そのため、日によって勤務時間帯や仕事内容が異なります。
早朝:畑での野菜収穫、豚への給餌、商品の出荷作業など
日中:休憩(特に夏場の日差しが強い時間帯)
夕方:再び畑作業や塩作りの業務

詳細は面接時にお話しします。
また、日々のコミュニケーションを通じて、お一人おひとりに合った柔軟な働き方を一緒に見つけていければと考えています。

福利厚生:
社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険)

休日休暇:
週休一日(ジョブローテーションを基準に調整)

具体的な曜日は担当業務によって異なる場合があります。
また、その他の業務についても、天候や繁忙期・閑散期に合わせて休暇のタイミングが変動する場合があります。
柔軟な働き方を実現できる環境を提供することを目指しています。

求める人物像:
百姓庵では、塩作りを中心とした業務を行うとともに、スタッフ間でジョブローテーションを実施しています。
これにより、多岐にわたる仕事を経験し、職人としての技術を磨くことができます。
私たちとともに、自然環境を大切にしながら新しい挑戦に取り組みませんか?

【求める人物像】
・チームワークを大切にできる方
・幅広い業務に興味があり、挑戦心を持つ方。
・ 様々なスキルを身に付けたい方。

【必要な資格】
・運転免許必須(出来ればミッション)

募集期間:
2025/05/23 〜 2025/07/17

採用人数:
1〜2名予定

選考プロセス:
書類選考→面接→研修期間→内定

・取得した個人情報は、採用選考にのみ使用します。
・選考プロセスは変更になる可能性があります。
・不採用理由についての問い合わせにはお答えできませんのでご了承ください。

その他:

HP:https://hyakusho-an.com/
Facebook:https://www.facebook.com/hyakushoan/#
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