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100年続く手仕事を次の世代へ

人の心を思う山形桐箱職人の

新たな物語が幕を開ける

山形県山形市|株式会社山形よしだ桐箱店

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親方のこと

名前: 吉田長芳

職人名: 山形桐箱職人

地域: 山形県山形市

工房名: 株式会社山形よしだ桐箱店

町のお気に入りスポット:
やまがたクリエイティブシティセンターQ1

贈り物に真心を添える山形桐箱

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まっすぐな木目と控えめな光沢が美しい山形桐箱。光が当たるとほんのりと輝く

蔵王連峰に代表される美しい自然と、充実した都市機能が共存する山形県山形市。この街で暮らす吉田長芳さんは、祖父から3代にわたり、伝統工芸品「山形桐箱」の制作を受け継ぐ職人だ。

「呼吸する木」と呼ばれる桐は、非常に高い湿度調節機能と抗菌作用を持っている。そのため、上質な桐箱にものを入れると傷みにくくなり、良い状態のまま保管できるという。

山形では昔から、着物や赤ちゃんのへその緒など、宝物を桐箱に入れる風習がある。果樹や蕎麦、おせち料理といった食べ物を桐箱に入れて贈ることも多い。吉田さんは「贈り物に桐箱を使うと『大切なものをお届けします』という真心も伝わりますよ」と話す。

桐が持つ保存性を最大限に生かすには、気密性が高い桐箱を作る技術が不可欠だ。吉田さんが作る、わずかな隙間もない精密な桐箱は、山形の贈答文化を支える役割を担っている。

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山形の赤い宝石、さくらんぼの美しさを桐箱が引き立てる(画像提供:株式会社山形よしだ桐箱店)

山形は日本一のさくらんぼ王国だ。桐箱に隙間なく敷き詰められた贈答用のさくらんぼは、取り出すのがもったいなくなるほど美しい。吉田さんは農家ごとに、ミリ単位の注文を受けてさくらんぼの桐箱を作っている。

「同じ『2Lサイズ』のさくらんぼでも、農家によって微妙に大きさが違います。さくらんぼを隙間なく箱に納めるには、桐箱のサイズを農家ごとに調整しなくてはなりません。お望みどおりの桐箱をお届けして、喜んでいただけると本当に嬉しいですね」

さくらんぼの桐箱は底をつけずに納品されるため、農家が果実を詰めてから取り付ける。吉田さんはその作業がやりやすいよう、釘を打つ位置に印をつけているそうだ。細やかなひと手間に、お客さまを思う職人の気持ちが垣間見える。

使う人に感動を届けるていねいな手仕事

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円盤カンナで桐箱を仕上げる吉田さん

山形桐箱は、あく抜きをした桐の板をサイズどおりに切り分け、食品が触れても問題がない接着剤で貼り合わせて成形していく。

「さくらんぼの箱のようなミリ単位での注文に応えるためには、ごくわずかなズレも許されません。とても精密な作業ですから、目視と手の感覚で確認しながら慎重に進めていきます」

接着剤が乾いたら箱とふたを切り分け、箱の内側に板を貼って「インロウ」と呼ばれる立ち上がりをつける。これによりふたがぴったりと閉じ、気密性がさらに向上するそうだ。

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インロウ箱は桐箱の中でも格上の作りとされている

最後に、箱の外側にカンナを掛けて表面を仕上げる。吉田さんが使うのは「円盤カンナ」と呼ばれる、大きなディスク状のカンナだ。この一手間が桐の木目を際立たせ、柔らかい光沢を生み出す。

「私は桐箱を通して、使う方や受け取る方に感動を届けたいと思っています。そのためには、お客さまの期待以上の桐箱を作らなくてはなりません。『ぴったりだよ』と笑顔で言っていただけると、とても嬉しいですね」

山形桐箱を次世代につないでいく新たな挑戦

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ひとつひとつ、手作業でていねいに作られる山形桐箱

吉田さんの祖父が「有限会社よしだ」を創業し、桐箱制作を始めたのは1930年のことだ。先代はさくらんぼの贈答用桐箱、富山の置き薬の引き出し箱といったオーダーメイド商品を開発。長芳さんは伝統を守りながらも、ブレッドケースやスマホ用スピーカー、御朱印帳入れなど、現代のライフスタイルに合う斬新な商品も手掛けてきた。

しかし、時代の流れは厳しかった。低コストの代用品が生まれ、どんなに良いものを作っても、その良さを知ってもらえないと売れない。職人である吉田さんは、経営、営業、商品開発、PRと、一人何役もこなしながら全力で走ってきたが、主要な取引先である農家の果物の不作や贈答文化の変化といった外的要因も重なり、経営は次第に厳しい状況となっていった。そして2025年6月、山形桐箱の伝統を最後の1社として守り続けた有限会社よしだは、歴史の幕を下ろす決断をした。

その技術を絶やしてはいけないと、立ち上がったのが株式会社ニッポン手仕事図鑑だ。有限会社よしだは2025年10月、ニッポン手仕事図鑑のサポートを受け「株式会社山形よしだ桐箱店」として新たなスタートを切った。営業体制も整え、これまで山形県内がメインだった販路も全国へと広げていく。今回の募集で採用する職人は、山形桐箱の新たな扉を開け、飛躍するための大切なメンバーとなる。

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桐の特性を活かして開発されたパスタ箱

これまで吉田さんは、良いことも悪いことも、楽しいことも苦しいことも一人で抱えるしかなかった。今後は共に話し合い、協力し合う仲間が一緒だ。だからこそ、山形桐箱の可能性を大きく広げられると胸を躍らせている。

「新体制をきっかけに販路が拡大し、従来の贈答品用桐箱だけでなく、画期的な商品のアイデアをお客さまへご提案できると期待しています。例えば、中身を見せながら保管できるブランドバッグやスニーカーのケース、劣化を防ぐヴィンテージジーンズの保存箱。桐箱の特長を活かした商品を、日本だけでなく海外にも伝えられたら嬉しいですね」

親子3代にわたって受け継がれてきた山形桐箱の歴史と技術は、2030年に100周年を迎える。1世紀の節目を前に、吉田さんはこれまでの職人人生に思いを馳せる。

「桐箱を生業とする家の跡継ぎとして、技術や想いを絶やしたくない一心で頑張ってきました。私にそれができたのは、山形のお客さまが桐箱を欠かせないものとして使ってくださるから。今後も桐箱を作り続け、次世代に歴史をつなぐことで、恩返しをしたいと思っています」

将来の担い手に伝えたいこと

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工房から山形駅へ向かう途中の風景

株式会社山形よしだ桐箱店の工房は、JR山形駅に程近い住宅地にある。駅周辺の商店街や文化施設のほか、桜の名所として知られる霞城(かじょう)公園も徒歩圏内だ。山形駅は、東京へ向かう新幹線や仙台へ行く仙山線が発着するため、利便性が高い。

果樹王国として知られる山形だが、旬の食材を活かした郷土料理も大きな魅力。里芋に牛肉や野菜を合わせて煮る「芋煮」、丸いこんにゃくを醤油で煮込んで串に刺した「玉こんにゃく」は象徴的なソウルフードだ。また「ラーメン県そば王国」と名乗る麺王国でもあり、冷やしラーメン発祥の地としても知られている。

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山形市のランドマーク、霞城セントラル。行政施設や映画館などさまざまな施設が集まっている

吉田さんは、この街で山形桐箱の担い手となる方に「ていねいに作業する大切さを伝えたい」と話す。

「桐箱づくりは実際に手を動かして、感覚をつかみながら覚えていくもの。最初はゆっくりでもいいので、ていねいに作業する習慣を身に着けてほしいです。そうすれば成長も早いですし、いろいろな桐箱に挑戦できるようになります。一枚の板から自由自在に桐箱を作るのは、本当に楽しいですよ」

山形桐箱は単なる容器ではなく、大切なものを入れるための特別な箱だ。吉田さんは、お客さまが桐箱をどういう思いで使うのか、どのように贈りたいのかを汲みとりながら作っている。将来の担い手には、その心配りも受け継いでほしいという。

「私と同じやり方でなくても構いません。自分なりの接し方で交流を楽しみながら、お客さまを大切にできる職人になっていただきたいですね。そして『1時間で作れる数がひとつ増えた』『次の工程ができるようになった』といった成長を、一緒に喜んでいきたいと思っています」

おまけの話

祖父から父へ受け継がれてきた灯を絶やさないよう、一生懸命に頑張ってきた吉田さん。仕事の悩みを相談しあえる「仲間」に憧れていた時期もあったという。
今後は株式会社ニッポン手仕事図鑑との二人三脚となり、共に支え合う仲間ができる。吉田さんは、そのことを心強く思っているそうだ。

今回の取材を通して、私は吉田さんを「人が大好きな方」だと感じた。お客さまに感動を届けたい、担い手を見守りながら育てたい。そう話す表情がとても温かかったからだ。桐箱を通して山形の贈答文化を守ってきた吉田さんの想いと、中に入れたものを守る桐箱の特性が重なっているように感じられた。

取材・執筆・撮影/さわきゆり

求人情報

工房名:株式会社山形よしだ桐箱店

働き方:
フルタイム(正社員)

給与:
月給175,000円
※試用期間あり(6ヶ月)

勤務地:
山形県山形市五日町6番地8号

勤務時間:
8:30〜17:30

仕事内容:
桐箱職人として、まずは、桐箱の「枠を組む」作業からスタートしていただきます。
製品の品質を左右する大事な工程です。
最終的には、材料の切り出しから、枠組み、仕上げのカンナがけなど、
すべての工程を一貫して行える職人を目指していただきます。

福利厚生:
社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険)
交通費等支給

休日休暇:
土日祝日
夏季休暇
年末年始休暇
有給休暇

求める人物像:
経験は不問です。
最初はうまくいかないことも多いかと思いますが、繰り返し何度も挑戦することで身につきます。
最初は、作業スピードも求めないので、丁寧に箱づくりに向き合ってくれる方。
まだ少し早いかな?と思うことも挑戦してもらいたいと思います。
臆せず、素直に挑戦し、日々の小さな成功を喜び、成長できる方を募集します。

募集期間:
2025年10月10日 〜 2025年12月4日

採用人数:
1〜2名予定

選考プロセス:
書類選考
1次面接
最終面接
内定

・取得した個人情報は、採用選考にのみ使用します。
・選考プロセスは変更になる可能性があります。
・不採用理由についての問い合わせにはお答えできませんのでご了承ください。

その他:

HP:https://kiribako-yamagata.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/kiribako_yamagata/
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