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【若手職人の、いまの話。】

迷いながらも錺金具と向き合う。

一打一打、理想へ近づく日々

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「川辺仏壇は、派手すぎずシンプルすぎないところが好きなんです」

そう語るのは、鹿児島県南九州市で錺(かざり)金具職人として働く高岡美咲さん。
彼女が手がけるのは、この地域で受け継がれてきた「川辺仏壇」の金具だ。

川辺仏壇は、木地・彫刻・宮殿(くうでん)・金具・蒔絵・塗り・仕上げといった各部門の職人技が結集して生まれる伝統的工芸品。
その一端を担う金具づくりの現場で、高岡さんはタガネを握り、日々腕を磨いている。

2026年4月で入社一年。
迷いの先にあった決断と、歩み始めた“いま”を追った。

興味が「やりたい」に変わった日

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京都の専門学校で金属工芸を学んでいた頃、高岡さんは錺金具に興味を抱いていた。
けれど、それを仕事にする覚悟までは決めきれずにいた。

自分は錺金具職人に向いているのだろうか。

確かめたくて、3年生のときにニッポン手仕事図鑑主催の「仙台箪笥の仕事体験インターンシップ」に参加した。

現地では仙台箪笥の歴史を学んだり、「タガネ」と呼ばれる工具を使用して文様を金属に打ちこんだり、新しい仙台箪笥を考えてみたり……。

さまざまな刺激を受けたが、中でも90代の金具師である八重樫栄吉さんの技術には目を見張った。

無駄のない手さばきで、金属が次々と形を変えていく。

「とにかく手が速くて、あっという間に一つの金具が出来上がってしまって……。迷いがなくて、かっこいいと思いました」

厚生労働省が表彰する「現代の名工」にも選ばれた熟練の技。

「自分も、こんなふうに錺金具をつくりたい」

いつの間にか、迷いよりも憧れが強くなっていた。
興味が「やりたい」に変わった瞬間だった。

「未来の自分」を想像できた場所

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仙台箪笥の仕事体験インターンシップは、採用前提ではない。
職人になるための道は、自分で探さなければならなかった。

他のインターンにも参加しながら、進路を模索する日々。そんななかで、ニッポン手仕事図鑑を通じて紹介されたのが、鹿児島にある木原製作所のインターンシップだった。

「もともと木原製作所のインターンシップには興味があったものの、タイミングが合わず参加できなくて……。ニッポン手仕事図鑑さんから新たなご縁をいただけたときは、喜んで参加を決めました」

木原製作所のインターンシップは一日目に仕事体験、二日目は採用面接という形式。
今度こそは採用につながるインターンシップだ。

とにかく、自分から積極的に質問を重ねた。

仕事体験の時間は、道具の使い方など業務に直結する疑問を次々にぶつけた。
休憩時間には「どうして今の仕事をしているのか」など、その人ならではの仕事観に触れられる質問をした。

「コミュニケーションが得意な方ではないんですが、質問することで“この職場のことを知りたい”という気持ちを示すようにしました。木原製作所の方たちはどんな質問に対しても優しく答えてくれましたね」

聞きたいことをためらいなく質問できる温かな雰囲気。
さまざまな金属工芸に挑戦できる環境。
ここで働く自分の姿が、自然に思い描けた。

インターンシップ2日目の面談後、内定をもらったその日のうちに「よろしくお願いします」と承諾した。

当然、不安がなかったわけではない。
けれど、鹿児島県内に住む両親の「やりたいんじゃないの?」という言葉が、大きな後押しになった。

未熟さと向き合い、理想を目指す

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木原製作所で働く日々は、挑戦の連続だった。

最初に任されたのは、川辺仏壇の金具に「魚々子(ななこ)」と呼ばれる小さな文様を打ちこむ仕事。入社して一週間も経たないうちに、実際の商品づくりに参加した。

「“本番で慣れたほうがいい”といわれたのですが、私は“もう始めるんですか!?”という気持ちでした。入社したばかりの自分にはハードルが高くて緊張しましたが、一週目から商品づくりに参加できたのはありがたかったです」

その後は、川辺仏壇の金具以外にも、神社修繕のための家紋や賽銭箱、神輿などさまざまな金具を手がけるようになる。

時には、腕の未熟さや作業スピードの遅さを実感して、苦しくなることもあった。

しかし、どうしても迷って進め方が分からなくなったときには、職場の先輩たちが温かく教えてくれる。「それで大丈夫だよ」という言葉に、安心感が持てた。

「今は未熟でも、とにかく数をこなすしかないと思います。納期があって切羽詰まった状態になることもありますが、品物が完成したときにはすごく達成感があるんです。この達成感をモチベーションにして仕事に取り組んでいますね」

未熟さを認めたうえで、進むことを選んだ言葉だった。

「いつか、川辺仏壇の幅を広げられるような新しいものを、自分の手でもつくれるようになりたいです」

錺金具職人としての道を、歩み始めたばかりの高岡さん。

理想には、まだ届かない。それでもタガネの一打が、川辺仏壇の未来を刻んでいく。

取材・文章/宮澤 恵理 写真/本人・ニッポン手仕事図鑑 提供

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