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【若手職人の、いまの話。】

直感を信じ移住を即決

老舗で夢を叶えた新米女性石工

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愛知県・岡崎市は、石材加工に適した花崗岩が産出され、茨城県の真壁、香川県の庵治と並ぶ日本三大石材産地のひとつに数えられている。

そんな岡崎市で長年愛される老舗の石材店「稲垣石材店」に、2025年、女性社員が新たに入社した。彼女の名は秋田夏希さん。兵庫県出身、大学は武蔵野美術大学だったという彼女が、なぜ縁もゆかりもない愛知に、増して力仕事のイメージが強い石工の世界にやってきたのか。「毎日がとても楽しい」と語る職場との出会いや仕事の様子を伺った。

大学院への進学も見据えた中での一大決心

秋田さんが工芸の世界に興味を持ったのは、高校2年生の頃。それまでは理系進学を考えていたそうだが、京都国立博物館で展示されていた地蔵菩薩に出会い、考え方が一変。そこから一気に伝統工芸の世界へとのめり込んでいった。

夢を抱いた秋田さんは、大学で彫刻を専門に学んだ。そこで彫刻に用いられるあらゆる材料に触れたことをきっかけに、彫刻の中でも石材を扱うことに夢中になっていったという。

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大学を4年で卒業し、迷わず職人の道に進んだ……と思いきや、「正直なところ、3年生の頃は大学院進学を考えていて、就職活動にはあまり力を入れていなかったんです」と秋田さんは語る。

彼女の運命を大きく変えたのが、2023年にニッポン手仕事図鑑が開催した「岡崎石工品後継者インターンシップ」だった。

移住も厭(いと)わなかったのは、やりたいことが明確だから

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友人からの誘いを受けて訪れたのが、彼女の現在の就業先でもある「稲垣石材店」だ。インターンシップでは工房や石切場の見学、石の加工などを体験。岡崎石工品の現場に触れたその翌日には、彼女の決意は既に固まっていた。

「私はとにかく石材の加工業務に携わりたかったので、業務内容を聞いた時、ここしかないと確信しました」

インターンシップでの直感を信じ、迷わず就職を決意した秋田さん。「毎日が楽しい」と語る様子はその決断に迷いがなかったことを証明している。

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だが、いざ働くとなれば「好き」という気持ちだけでは解決できない現実的な問題のひとつだってありそうなもの。たとえば、職人を志望する女性には、「石工は力仕事がキツそう」という印象を抱く方も少なくない。しかし秋田さんは、そういった体力面での悩みを抱えることはほとんどないと語る。

「現場が何より嫌うのが、新人に機械を扱わせて怪我を負わせてしまうことです。たとえば、石材を抱えるような重たい作業を3日連続で行うと、肩や手が疲れてしまいますが、実際はそうなる前に『休んで』と社内から声がかかります。今どきは作業用の機械そのものも進化しているので、力仕事がしんどい、と感じることはほぼありませんね」

一般の就職活動にも同じことが言えるが、「想像していた業務内容とのギャップ」に苦しむ新入社員は後を絶たない。まして職人の世界ともなれば、工房ごとに仕事の流儀も環境も大きく異なるものだ。秋田さんのように確信を持って一歩を踏み出すためにも、今後工芸の世界に踏み出す方には、ぜひインターンシップを通じ、自らの肌で現場の空気を感じて欲しい。

100年企業に吹く新たな風

2027年に創業100年目を迎える老舗・稲垣石材店で、常務取締役である稲垣遼大さんが2020年に立ち上げた新ブランド「INASE」。秋田さんは入社1年目ながら、その新ブランドの石材加工や商品開発にも関わっている。ブランドの公式Instagramの中には、彼女が制作を手掛けた商品も多く並んでいるが、中でもとくに思い入れがあるのが、石のペーパーナイフだそうだ。

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「職場は私の石材加工好きをよく理解してくれています。おかげで切削練習の一環として作業場を使わせてもらうことがあるのですが、その練習の中で作ったペーパーナイフは、INASEのワークショップの制作物として活用されているんですよ」

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稲垣石材店では主に墓石といった大きい石材を扱っているが、INASEでは個別のクライアントの要望に応じて石材を活用した新たなプロダクトを作り続けている。

叶うなら、ずっとここで働きたい

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入社から間もなく1年が経とうとしているが、秋田さんの石に対する情熱が衰えることはない。「解雇されない限りここで働き続けたい」との言葉からも、今の仕事を心から楽しんでいる様子が伺える。

石工の世界には、どんな人が向いているのか。
そんな質問に対し、秋田さんはこう応えた。

「石材加工は、一見すると毎日が石を削るだけの単調な作業のようにも見えます。そこに面白さを見出せるかどうかが、長続きするかどうかの分岐点なのかもしれません」

秋田さんの言葉には、石材という一見物言わぬ素材の中に無限の可能性を見出し、それをプロダクトへと昇華させることに喜びを感じる職人の素養が滲んでいた。

「自分が職人として成長していると感じられるのは、指導者の存在が本当に大きい。私が困った時にすぐに的確なアドバイスをくれるし、どんな石材加工だってこなせる。その背中にすごく憧れますし、将来は自分もそうなりたいと思います」

将来を語る秋田さんの目は、すでに数年先の自らの姿を見据えているようだった。

取材・文章/桐田 えこ 写真/本人・ニッポン手仕事図鑑 提供

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