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「島の宝」

人々の”ちむ(こころ)”で

紡ぐ、沖永良部 芭蕉布

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「島の宝だもん。じいちゃん、ばあちゃんの宝を預かっているの」

何も迷いがなくそう答えたのは、沖永良部島の芭蕉布作家である長谷川千代子先生である。そう、まさに芭蕉布は沖永良部島だからこそできる伝統工芸品なのである。静かな平地でハブがおらず、台風が来ても通り抜けていくという芭蕉布生産にうってつけの最高の条件がそろった島なのだ。

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「芭蕉布づくりはすべて自分でできるのよ」

長谷川先生をはじめ、芭蕉布生産に関わるすべての方が口を揃えて語ってくださったのは、全行程を手作業で行えるという芭蕉布の特徴である。苧倒し(うーたおし)、苧剥ぎ(うーはぎ)、苧炊き(うーだき)、苧引き(うーびき)、苧干し(うーほし)、苧績み(うーうみ)、そして染色や機織りまで全てを自身の手で行っていく。糸づくりから手をかけられるのは芭蕉布だけなのではないだろうか。世界三大織物の一つである大島紬でも、糸づくりと機織りが一連で行われることはない。この沖永良部島だからこそ生産のすべての行程を担うことができるのだ。ちなみに、「苧:うー」とは糸芭蕉の繊維を指す沖縄の言葉で、芭蕉布生産の工程には何度も登場する。

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「沖永良部の資源を生かしてねこんなにきれいな糸ができるのよ」

うー引き体験をさせていただいていた私たちに、自分でしごいた芭蕉を愛しそうに眺めながらそう語ってくださったのは長谷川先生。うー引きは、煮た糸芭蕉の原皮から繊維を取り出す作業である。芭蕉が糸になる瞬間を実感できる貴重な工程だ。長谷川先生も初めて自分の手で糸を生み出した時はとても感動されたされ、芭蕉布に魅了されたというお話をうー引き体験の前から伺っていたが、まさか、さっきまで畑に力強く生えていた糸芭蕉がこんなにも繊細で透き通る糸になるとは全く想像できなかった。

しかし、実際に先生が感動された瞬間を私も体験したことで、芭蕉布づくりを通して先生の“こころ”と重なることができたように感じた。そのくらい、芭蕉の糸は美しかった。

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「うー引きした芭蕉は、たらいに先を合わせて入れてってね、後の自分が苦しまないように(笑)」

うー引き体験中の私たちにそう声をかけてくださったのは、行田実可(ゆきだみか)さん。みかさんは、芭蕉布に出会ったことで自身のルーツに合うもの、なにか自身の大切にしなければならないものを見つけたと思い、長谷川先生のもとで芭蕉布生産に関わっている。

竹ばさみでしごいて出てきた繊維はたらいに入れていくのだが、その時に一つ一つ先端を合わせて入れていく心意気がとても大切になる。というのも、このあと待っているチング巻きという工程で繊維を数本束ね、親指に巻きつけて拳大の球(チング)を作るのだ。この作業の時に、うー引きした繊維がバラバラに入っていると繊維が絡まってしまって、解くのに時間を要したり、繊維がちぎれてしまったりするのだ。それを避けるための細かな心意気が後の自分の作業を格段に楽にし、見た目だけでない、纏う雰囲気からも温かく美しい芭蕉布になるのだ。芭蕉布生産にはこのような場面がたくさんある。

「細かな作業、根気のいる作業、そして生きたものを扱うからこそ“こころ”を見せることが大切なのかな」

全ての工程を自身の手で担えるからこそ、その時の自身の“こころ”が作業に反映される。どのような想いをもって、どのように芭蕉布生産に関わるかは人それぞれだ。この工房にもそれぞれの想いをもった方々がたくさん関わっている。どれほど細かく、芭蕉布として形になったときに見えないことだとしても、そこに関わった全ての人の想いが色こく刻まれ完成していくのが芭蕉布なのであると実感する。

「人との出会い」「人を磨くのは人」「人を大事にすること」

芭蕉布工房の方々とお話ししていて自然と出てくるのは“人”という言葉だ。芭蕉布はすべての工程がつながっており、糸づくりから手をかけることができる。だからこそ、たくさんの人の協力が必要で、一人一人の丁寧な心意気が手に取るようにわかる。そのため、みなさん芭蕉布を通した人との関わりをとても大切にしていることが伺えた。

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そして、沖永良部島でつむがられる芭蕉布だからこそみられる“人”に対する想いもあるのだ。

「芭蕉布はね昔は大切な人のために織っていたの。布がない時代に、お母さんたちが力を合わせて芭蕉をとって糸にして、それぞれ持って帰って布を織ったの。」

沖永良部島の芭蕉布は単なる“高価なもの”ではない。本当に生活に布が必要だった時代に、島のお母さんたちが家族を想って糸を紡ぎ、布を織ったのだ。沖永良部の自然を生かしその地独自の文化が紡がれていったのだ。自分の人生のなかに芭蕉布がある。衣食住の中の一つのような、生活の中に脈々と存在する芭蕉布が沖永良部島の芭蕉布なのである。人が織りなす、芭蕉布を通した物語が芭蕉布の価値であり、魅力であり、関わる方々が想いをよせる理由の一つである。

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「芭蕉布と関わったから自分の中に芭蕉布という文化ができた」

きっと、生きていて芭蕉布に関わらない人は数えきれないほどいるだろう。それでも、芭蕉布に関わった人は“もの”としての芭蕉布だけでなく、人を介した芭蕉布の“こころ”、“想い”と触れ、もう芭蕉布のない人生は考えられなくなるのではないだろうか。だから、芭蕉布を文化といい、自分の人生の中の大切な“こころ”のよりどころにするのだと思う。私も、芭蕉布と関わった三日間で自分の中に様々な人の想いが芭蕉布を通して流れ込んできていたことを強く実感した。

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「自分の心と手があればできる」

長谷川先生のお言葉通り、芭蕉布工房はまさに心と手がつなぐ場所であった。工房に関わる方々はみなさん芭蕉布を通した人との出会いが生む“こころ”の動きに魅了されていた。それは、長谷川先生が長年紡いできた芭蕉布への愛情深い“想い”や大切する“こころ”がたくさんの人に伝播したからなのではないかと、今回、芭蕉布工房にお伺いして感じた。芭蕉布のもとでつながる一つ一つの出会いが、この先も様々な形で芭蕉布が残り続けるための懸け橋になると確信する。そして、これからの出会いも沖永良部の芭蕉布生産に関わるすべての人が待ち望んでいる。

想いが紡がれるまち、それが沖永良部島。そして、その想いが具現化するもの、それが芭蕉布。自分の中にはない人とのつながり、心の豊かさを与えてくれるのが、沖永良部島の芭蕉布である。そんな、“こころ”に生きる芭蕉布に一度触れてみてはどうだろうか。

取材・撮影・文章/佐藤 紬

【沖永良部芭蕉布工房 (鹿児島県大島郡知名町下城1270)】
商品について:https://hasegawa.okinoerabu-bashofu.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/bashofu_okinoerabu/

※この記事は、鹿児島県主催「芭蕉布魅力発信インターンシップ」に参加した学生が作成しました
https://nippon-teshigoto.jp/okinoerabu-bashofu_form/