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【若手職人の、いまの話。】

伝統とモノづくりの街・名古屋で

自分らしく職人の道を歩んでいく

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ものづくりの街・名古屋。古くより職人文化が息づくこの地で、今も作り続けられているのが「尾張仏具」だ。細やかな分業制である「尾張仏具」はそれぞれの専門職人がバトンを繋ぎながら、一つの世界を創り上げていく。

この伝統の技を未来へと繋ぐ試みが「尾張仏具後継者インターンシップ」だ。伝統工芸に興味を持つ人を対象に、企業見学や就業体験を通じて、産地の門戸を広げている。

このインターンシップをきっかけに、産地企業である京屋伊助商店に入社したのが、越前谷洸太さんだ。職人の道を一歩ずつ歩む、彼の現在地を訪ねた。

後継者インターンシップを経て、職人の道へと進んだ今

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インターンから5年を経た今、越前谷さんが主に担当するのは、古い仏像の修復だ。「修復」と言っても、傷んだ箇所を部分的に直すものから、一度完全に解体して新品同様にまで戻すものまで多岐に渡る。

一から解体する場合は、鍋で火にかけて接着を剥がしてからバラバラにし、乾燥、再接着を行う。欠損や割れ、穴がある箇所には木を足し、彫り直しながら、次の工程である漆塗りや彩色のための「木地(きじ)」を完璧に整えるまでが彼の役割だ。

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修理を進めるなかで、かつてその仏像を手がけた職人の“くせ”や“人となり”に触れる瞬間がある。

「過去に存在していた職人さんが作ったものが、何百年の年月を超えて自分の目の前にある。そこに自分が手を加えることは、どこか不思議な感覚があるというか、面白いなと思います」

歴史の重みに触れ、新たな命を吹き込んでいく。それは、新しいものを生み出すこととはまた異なる尊さがある。

「仏様を引き取りに行ったり、修理後にお届けしたりすることも。お寺の空気感や住職さんと触れ合うなかでの気づきや、ボロボロだった仏様を自分の手で直してまた元の場所に戻す。その大きな流れに身を置くことで、自分の視野がぐっと広がる気がしています」

一歩ずつ、自分らしく技を磨き、生活をととのえる

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美術への造詣が深い両親のもとで育った越前谷さんが、はじめて仏像に興味を持ったのは小学校低学年の頃。母と訪れた上野の博物館での展覧会がきっかけだった。

「かっこいいなと心を動かされて、それから仏像が好きになった。自分でも作ってみたいと、木片を削ったり掘ったりしていました」

それが立体造形との出会いだったとおぼろげな記憶をたどりながら語る。
その後、美術系の高校へと進み、迷わず美術大学の彫刻科を志したのは「自分には立体が向いている」という確信があったからだ。

「尾張仏具」との出会いは、卒業を控え、進路を模索していたときのこと。インターンシップの開催を知り、自身の歩んできた道に近いものを感じて応募。現場で目にしたのは、自分の仕事に誇りを持ち、生き生きと手を動かす職人たちの姿だった。

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「写真で見たり話を聞いたりするのとは全く違う、体全身で感じる刺激がありました。『自分の手仕事がダイレクトに反映される仕事はいいな』と直感的に思ったんです」

関東から名古屋への移住、そしてはじめての一人暮らし。仕事を覚える以前に、まず「日々の暮らし」という壁に直面する。

「自分の生活を自分で回すこと。仕事も家事も含め、日常生活全体をいい感じに保つことに慣れるまで、ずいぶん時間がかかりました」

洗濯物や皿洗いが溜まってしまうような日も…。
仕事も家事も、そして自身の作品づくりもすべてが地続きにある。両立の大変さを身をもって知った今だからこそ、焦ることなく、自分のペースで一歩ずつ前へ進めるようになった。

仕事も作品づくりも、自分らしく“いきいき”とありたい

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仕事と暮らし、毎日の生活を自分のペースで回せるようになってきたことで、自身の作品づくりにも意識を向けられるようになったと語る、越前谷さん。

生活の糧を得る「仕事」と自分の表現としての「作品づくり」の間には、明確な線引きはなく、ゆるやかに繋がっている。仕事で「モノづくり」に向き合う中での気づきが、自身の創作活動にも大きく影響しているのだ。

また、あらためて実感しているのは「技術は見て覚える」という職人の本質。

「先輩の手元や修復後の作品を見て『こうやってやるんだな』と。それぞれのやり方があるので、実際に自分でもやってみて、自分なりのやり方を見つけている途中です。だからこそ、引き続きコツコツやっていくだけ。ただ、生き生きとした姿ではいたいですね」

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これからに思いを巡らせながら、伝統工芸やモノづくりを仕事にすることに興味があるのなら「現場に行って、見て、聞いて、触れてみることが大事」だと、自身の経験を踏まえた上で語る。

「違ったな、と思ってもそれでいいんです。外から見ると、職人の世界は敷居が高く見えるかもしれないけれど、だからこそ気軽に触れてみてほしい」

興味を持った若い人が来てくれることは、産地にとっても喜ばしいこと。周りの人たちに心よく迎え入れてもらった経験があるからこその言葉には実感がこもっている。

「これからくる新しい人を、自分がしてもらったように温かく迎えたい」

さらに続いていく未来に向け、一緒に手を動かしていく仲間がいることは、越前谷さんにとっても大きな励みになることであろう。

職人として目指す目標は?との問いに対し、「職人の仕事自体に不満はない」と前置きしつつ、気負いなく答える越前谷さんの言葉には、仕事に対する誇りと未来への真摯な想いが確かに込められている。

取材・文章/大熊 智子 写真/本人・ニッポン手仕事図鑑 提供

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