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【若手職人の、いまの話。】

漆の技を受け継ぐ仙台に移住。

仙台箪笥職人になるまで

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赤く艶やかな漆に、重厚な金具。木目の力強さを引き立てるその佇まいは、仙台の地で育まれてきた仙台箪笥の象徴でもある。

宮城県仙台市。城下町としての歴史を持ち、美術館や展示、ものづくりの現場が生活圏に点在するこの街には、今も暮らしのそばで技を受け継ぐ人たちがいる。

その工房の一角で、漆と向き合う日々を送っているのが、長澤仁奈さん(26)だ。地元・福島県を離れ、就職先が決まる前に宮城県仙台市へ移住。

「やりたい仕事がある場所に思い切って行こうと思ったんです」

そう語る長澤さんが職人の道にたどり着くまでには、想定外の転機があった。

文化財保存修復の学びを経てインターンシップに参加

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長澤さんは、山形県の大学で文化財保存修復を学んでいた。仏像を中心に、日本の歴史や文化、文化財に触れる日々。漆の技法にも出会ったが、当時思い描いていた将来像は、文化財を保存や修復することだったそう。

「大学時代には、何かを新しくつくるより、受け継がれてきたものを直して、後世につないでいく仕事がしたいと思っていました」

そのため、職人になる道は、当初まったく想定していなかったと言う。

転機となったのは、2023年に参加した仙台箪笥のインターンシップ。伝統工芸や地域に根差した文化に関わる仕事がしたいと考えて情報を探していたときに、偶然目に留まったのだ。

ただ、このインターンシップは就職を前提としたものではなく、学びを目的とした仕事体験。それでも、仙台箪笥の鮮やかな赤い漆と、木目を際立たせる塗りの美しさに惹かれた長澤さんは、参加を決意した。

仙台箪笥のインターンシップで芽生えた「職人になりたい」

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インターンシップに参加する前、長澤さんが抱いていた職人のイメージは、決して明るいものではなかったと言う。

「職人さんはすごくストイックで、厳しくて、気軽に話しかけちゃいけない存在だと思っていて。正直、ちょっと緊張していましたね」

それでも、3日間のインターンシップの中で、最も印象に残ったのは、「人」だった。

「すごく親身で、こちらの話をちゃんと聞いてくれて。職人の世界は厳しいだけではないと思えたんです」

ものづくりを通して地域と関わり、技を次につないでいく姿に触れたことで、長澤さんの中に、これまでなかった選択肢が芽生えた。
インターンシップを終えた頃、長澤さんの中ではすでに「職人になりたい」気持ちは固まりつつあった。ただ、その時点で就職先が決まっていたわけではない。
それでも、2024年1月に仙台への移住を決断する。

「もしすぐに仕事につながらなかったとしても、仙台にいれば、技術を教えてもらったり、職人さんと関われる機会はあるんじゃないかと思ったんです」

一方で、仙台には、インターンを通じて知った職人や工房、ものづくりの現場がある。移住に対する不安よりも、これからのワクワクのほうが大きかった。

職人として働き始めて感じた漆塗りの厳しさ

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実は2023年のインターンシップ当時、仙台箪笥の組合では高齢化や経済的な観点から、新たな人材の採用に慎重な状況が続いていた。そのため、インターンシップも採用を目的としない、あくまで仕事体験としての実施にとどまっていたと言う。

しかし、インターンを通じて職人の道を本気で志す参加者が現れたことを受け、組合や関係者の間で、将来的な受け入れの可能性について検討が進められるようになった。長澤さんが2024年1月に仙台へ移住したことをきっかけに、受け入れ先となる工房探しが本格化し、翌2月には実際に工房を訪れる機会が設けられた。

これまで学んできたことや将来の希望を伝えた結果、2024年4月から工房で働くことが決定。こうして、仙台の工房に入社した長澤さんは、仙台箪笥の職人としてのキャリアをスタートさせた。とはいえ、入社してすぐに「塗り」を任されたわけではない。最初に教わったのは、塗る前の下準備だった。

養生、木地研磨。漆を塗るための土台を整える作業から、一つずつ仕事を覚えていった。現在は、下準備に加えて漆の手塗りも担当している。箪笥に限らず、工房にはさまざまな依頼が舞い込む。

実際に漆塗りを仕事として始めてみて長澤さんが感じたのは、その難しさだ。

「乾かす環境をちゃんと整えても、なぜか乾かなかったり、思ったような発色にならなかったりするんです」

原因がすぐに分かるとは限らない。「どうして失敗したのか」「次はどうすればいいのか」を考え続ける日々が続く。大学で技法を学んでいたとはいえ、実際に仕事として手を動かすことは、まったく別物だった。

さらに、漆塗りには独特の緊張感がある。一度塗り始めたら、途中で止めることはできない。途中で手を止めてしまうと、乾き方にムラが出るなど、仕上がりに影響してしまうからだ。

数が多いと、半日塗り続けることもある。過去には、大量の製品を相手に、一日中漆を塗り続けたこともあった。

それに、漆塗りは「繊細な作業」というイメージとは裏腹に、力仕事も多い。下地づくりでは砥粉をヘラで潰し、漆と練り合わせていく。粒子を細かくするために、ヘラで潰す作業を一日中続けたこともあると言う。

10年かかると言われる技術と向き合いながら、働き続けたい理由

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職人の仕事は、自分で自身の技術を磨き続ける必要がある。師匠からは「ちゃんと塗れるようになるには10年はかかる」と言われている。技術だけでなく、木地の状態を見極める目や、感覚も必要になる仕事だ。

それでも、長澤さんはやめたいと思ったことはないのだそう。

「知れば知るほど、仙台箪笥の歴史や技法に惹かれています。大変だと思うこともありますが、職人になって後悔したことはないです」

働き方については、入社前に抱いていたイメージとは良い意味で異なっていた。
職人の仕事は残業が多く、自分の時間が取れない印象を抱かれやすいが、長澤さんが働く工房では、一般的な会社員と同じように、定時で仕事を終える。そのため、自分の時間を確保しやすい。

「休日は美術館に足を運ぶことが多いです。興味のある展示があれば、積極的に出かけたり、家で読書をしたりと充実した休日を過ごせています」

仙台は、美術館やイベント、カフェなどが生活圏内に集まっている街だ。アクセスの良さもあり、移住の良さを感じる理由のひとつになっている。

そして、これからやりたいことについても、少しずつ思い描いている。

「将来的には商品づくりに関わりたい。金具をつくる職人と、自分の「塗り」の技術を組み合わせ、誰かと一緒に商品をつくる。仙台箪笥そのもの、あるいは仙台箪笥の意匠を取り入れた、別の形の商品でもいい。若い人に、仙台箪笥を知ってもらいたいです」

箪笥が、暮らしの中で使われにくくなっている現状。だからこそ、従来の形にとらわれず、別の形でもいいから使ってもらえる機会を増やしたいそう。将来的には、若い世代と一緒に、仙台箪笥の新しい関わり方をつくっていきたいと考えている。

取材・文章/石田 千尋 写真/本人・ニッポン手仕事図鑑 提供

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